霊安日記

jf_nights の霊安草子。

第6日目 まだ間に合う

こんばんは。じぇにです。
これはじぇにの師走徒然伝2016 Advent Calendar 2016 - Adventar6日目の記事です。

紫色のクオリア (電撃文庫)

紫色のクオリア (電撃文庫)

紫色のクオリア』という本があります。シュタインズゲートを読んだ時に某こーはいくんが貸してくれて読んだ本です。
最近また読みたくなって、BookOFFをいくつか探してたのですが、家の近所のと三条のとでは置いてなくて、東寺BookOFFでやっと見つけました。
ストーリーは人間がロボットに見える友人「毬井ゆかり」と、その能力故に殺されてしまうゆかりを助けようと奔走する主人公「波濤学」の物語。

ゆかりは人間がロボットに見える。プラモデルのロボットと(普通の)人間と、違いがないらしい。その能力で、とある殺人事件の調査を頼まれる。
学は犯人に人質にされ、重症を負うのだが、プラモデルを修理する感覚でゆかりによって修理さ(助けら)れ、助ける過程で腕に携帯電話を埋めこまれる。
やがてゆかりはその能力を見つけた「組織」にスカウトされる。その組織は外国にあり、スカウトするために、学校には転校生が送り込まれ、ゆかりは留学を決める。
ゆかりを送り出したくない気持ちとゆかりのためになるのではないかという気持ちの葛藤の末、しかし学のもとにはゆかりの訃報が届く。
そしてゆかりは組織の調査の末に殺されたことが分かり、学はゆかりを助けるために奔走することになる。

まずゆかりの他人の見え方。人がロボットに見える、というのはまぁなんとも奇妙だけれど、見え方というものは非常に難しく、証明出来ない。
例えば僕が「赤」という色を認識したとして、その「赤」があなたの見ている「赤」と同じように見えている保証はあるのだろうか。RGB, HSVでほげほげという見方もあるのかもしれないけど、個人個人がどのように受け取っているのかは証明しようがない。
視覚以外にも例えば聴覚。羊の鳴き声といえば、「メェメェ」だろう。しかし英語では[baa]であり、まったく違うものである。
個人個人での「感じ」はその人にしか「感じ」られない。

学は腕に電話を埋め込まれることで命を救われた。学は人間がロボットに見えるなんてことはなく、普通の人間だ。しかし、現実問題として左手で電話をすることが出来る。
学はこの能力からはじまり、やがて平行世界の自分からはては(ある程度)別人になって、ひたすらゆかりを救おうとする。ゆかりはしかし、様々な形で死んでしまう。
平行世界を渡り、転校生をある時は殺し、ひたすらタイムリープし、様々な手段で奔走する。
そして最終的に自身の存在を上位の存在に昇華させ、ついにゆかりが死ぬ運命をも曲げて救おうとします。

しかし、ゆかりの台詞が、もうどうしようもなくこの作品を素晴らしいものにしている。
「あたしの運命を決められるのは――変えていいのは、あたしだけで、ガクちゃん(主人公)に、そんな権利はないんだよ」

気の遠くなるようなタイムリープの末の最善手を、一言で否定する。その手段は違うと。
結局、救う側は救われる側に自身のエゴを押し付けていただけ、というこの主張に酷くショックを受けました。あぁと。

この結末は、結局、何も解決はしていません。留学は回避したものの、もしかしたらまた別の無惨な死が訪れるかもしれない。
それでも「自分の運命を切り開いていくのは、自分しかない」というこの主張は非常に良かった。

タイムリープモノの傑作はいくつもあります。しかし、その中で僕はこの作品を一押ししたい。
めちゃくちゃ端折った紹介でしたが、もし興味を持った人がおられたら是非是非読んでほしいと思います。終わり。