霊安日記

jf_nights の霊安草子。

北の国での夢

とても眠かった。なんせ日付けが変わってから寝たのに、起きたのが朝の5時だったのだ。しかも今日は土曜日。一週間の疲れを癒すにはあまりにも短い睡眠だった。
なんとかPCの前で睡魔に抗っていたのだが、限界が来た。布団に着地する。すぐに深みに入っていった。

気がつくと僕は、見たこともない家の前にいた。家の前は上り坂になっていて、ちょっとだけ息切れしているところを見ると、どうやらここを登ってきたらしい。家の奥は壁があり、その上には森のように木々が広がっていた。家との境目は金属の柵で仕切られていた。なぜか僕はその森にどうしても入ってみたくなり、奥の壁をよじのぼり始めた。そろそろ柵に手が届きそうというところで、家の扉が開く音がした。何かイケナイことをしている気持ちになった僕は誤って手を滑らしてしまい、地面に叩きつけられて、頭を打ってしまった。いたた……と思う間に、そのまま気を失った。

またしても気がつくと、僕は今の北海道の布団の上だった。いや、おそらく布団の上だろう、という方が正しい。というのも、どうしても目が開かなかったのである。なぜだろうと思っていると、パタパタパタッ……っと誰かが走っていく足音が聴こえた。えっ今僕は一人暮らしだ。誰だ、マズい。僕は懸命に目を開こうとしたのだが、糊付けでもされたように瞼はばっちり開かない。そしてしばらく瞼の筋肉と格闘しているうちに、そもそも身体も動かないことに気がついた。腕も足も全く上がらない。ムムム、これは金縛りか……という諦めとともにまたしても気を失った。

再三気がついた僕は、また家の布団の上だった。今度は目が開いた。安心しながら身体を起こしたのだが、なんとなく部屋の様子が違う。こっちに引越してきてまだ1ヶ月で、こんなにモノに溢れていない。何か鼻腔をくすぐるいい香りもする。いったいここはどこだ?
と悩んでいると誰かが入ってきた。そいつを見て、今まで僕は見たこともなかったけど、なぜか妖怪のぬらりひょんだという確信を持った。そう、ぬらりひょんが入ってきたのだ。

「ここはどこですか」僕は尋ねた。
「そうじゃのう、どこじゃろうのう」そいつは答えた。答えになってない。
僕の不満が顔に出たのか、笑いながらこう言った。
「物事にはなんでも表と裏がある。モノによっては三面、四面もあるじゃろう。お前さんがたがこの世、現実と呼ぶ世界そのものにも、いくつもの面があるもんじゃ。だから、ここはお前さんの家の中であり、儂等の住まいでもある。普段それはあまり誰も、もちろんお前さんがたも、儂等でも意識していないことでもあるんじゃが、何かの拍子にお前さんはこちらに意識が来てしまったんじゃろうな」

なるほど。なんかしらんけど妖怪かもしくはまぁそういう括りでいいのか分からないけど、普段見ない世界に来たらしい。金縛りはその前兆だったのかもしれない。
そうこうしていると、さっきのパタパタいう足音がこちらに近づいてきた。
「おっ 童子が来たかの」
小五くらいの着物姿の女の子が走ってきた。そういえばこの子は見覚えがある。数年前に遠野で会った子だ。
「お客さまがきました」
「そうかそうか」
女の子はぺこりと僕におじぎをしてパタパタとどこかへ行ってしまった。

「さて、そろそろ頃合いかの」
「頃合い」
「そうじゃ。こちらもまた客人じゃし、お前さんは帰らねばならん」

客人が誰なのか知りたかったし、もっとこの部屋の中にいたかったが、残念に思いながらもたしかにそろそろ帰らねばならない、という気持ちもしてきた。
「そこで横になってしばらくしたらもとの意識に戻っているじゃろう」
「ここはあくまでも全く別のどこかの世界ではない。お前さんが住んでいる部屋を、言ってみれば視点を変えて見ているだけにすぎないんじゃ。よぅく覚えておくんじゃぞ」

その言葉を最後に僕の意識は遠のいていった。

もう一度気がつくと、今度は確かに僕の部屋だった。あまりモノがないし、ちょっと服とかが散らかっている。
目も開くし身体も動く。しかし鮮明な夢だった。いや、夢だったのか?夢と呼ぶには酷く生々しかった。

せっかくなので覚えている間に記録しておこうということで、こちらに書くことにした。
機会があればまたあの子に会いたいな。そんな気持ちで僕は今からご飯の用意をします。